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2025.06.21

【HINTS for soft-tennis】勝利への道 vol.1(後編)@堀晃大(NTT西日本前監督)モノの本質を見極める。

勝利への道 vol.1@堀晃大◎ソフトテニス・マガジン7月号P72~77

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NTT基町ビル1階展示コーナーはトロフィーなど過去の栄光が展示されている。一般の方も見ることができる

本番をイメージさせるのを
意識してきた成果

 船水颯人選手なんかは全日本の初戦でも手が震えていました。どの選手たちも見せないだけで、内心びくびくだと思います。中学生でもトッププレーヤーでも同じです。でも、ええ加減にやっているやつは緊張しないからねと。トップに立ちたい、世界一になりたいと思って、毎日真剣に取り組んでいる選手が一番緊張するんだからと常に話しています。それは意識が高いということです。いいことなんです。

 練習と本番は違うと言う指導者がいます。監督になった際、そう言う選手もいました。よく考えてみると、どのチームも切羽詰まったら、「練習通り」と言うんですよ。じゃあそのチームが練習の時に「本番通り」と言いながらやっているかと思えば、そうでない。だから、できるだけ練習を本番に近づけようと仕向けました。ウォーミングアップもそうですが、試合前になるといきなり、せかせかウォーミングアップを念入りにしたり、トレーニング行ってきますと言う選手がいたら、逆に心配になります。過緊張というんでしょうか。

 長江とか上松にしても、普段も試合前も同じアップ、一緒のルーティーンですし、イチロー選手などの姿勢を参考にしました。本番と日々の流れを一緒にしようと。

 監督当初、全員同じウォーミングアップをしていました。でも結果が出なくて、シーズンの途中に選手から、「もう少しダッシュを多めにしたい」とか「ストレッチ系をもう少ししたいんです」と言われました。本人がベストパフォーマンスを出さないといけないので、監督が決めるのはおかしいと思いました。30分はそれぞれがウォーミングアップをしよう。試合の日と同じことをしようと伝えました。それぞれにメニューを任すんです。

 それぞれのメニューでやるようになって、大会初日でもつれたり、負けたりが少なくなった。日々をなるべく本番に近づけた成果だと思いました。今はこちらのチームの方が周りにも多くなったと思います。指導者が本番と練習は違うからなと言うことは今でも多いです。初戦・二戦目で調子を徐々に上げていってという考え方も未だにあります。現在は初戦の相手もかなりレベルアップし、朝イチからMAXでいかなければ番狂わせが起こってしまう。我々は自ら勝つ確率を下げる行為をしてはいけないのです。

 テニスは個人競技なので、個人が納得するウォーミングアップ、練習を行い、それらが本番に近づけられたら、結果にも直結すると言ってきました。

最後のSTリーグを終えて

ヒントはいろんなところに
選手たちに刺激を与える

 さまざまな競技から学びましたね。いろんな方に聞いたり、本を読んだり、資料を探したりして、こういうのを取り入れたら面白いなと感じたら、すぐにやってみる。最後の方はバドミントンの練習からもつながってきました。もちろん、ソフトテニス界の先人たちからも学びましたが、半分以上は過去の人たちの成功例を自分なりに現代版に落とし込んでいます。新しいことよりも、昔の「強い日本」のことをしている感覚です。ダブルフォワードだって詳しく調べると昭和の初期からあった。新戦術ではないのです。

 最近しっくりしたのは、スティーブ・ジョブズの発展的原点回帰という言葉です。簡単に言うと新しいものは生まれない。昔のものに少しつけ足したり、アレンジしたり、合体させたりして発展していくから発展的原点回帰なんだと。スティーブ・ジョブズもなかなかいいこと言うなと(笑)。昨年はこの言葉も選手たちに紹介しました。そういう意味で実際に自分がやっていることは、昔の昭和の強かった日本が韓国、台湾に負けなかった時代の方々の話を聞いて、こんなことをやっていたんだと落とし込んだり、他の競技から取り入れアレンジしたものになっています。

 反面、普通が嫌いなので、「定番メニュー」という常識といわれていることにも疑問を持ちました。過去の偉人が「絶対無二の一球」と言っているのに、ドリル式の練習ばかりするじゃないですか。それよりもいろんなシチュエーションを想定して、いろんなことをやる。これは尽誠学園の森監督と共通することがあるのですが、あんないろんなことをやってと批判されることはあります。ソフトテニスはいつどういうシチュエーションになるか分からない。ネットプレー嫌なんですと言っても、最後のマッチポイントでネットに引き出されるかもしれない。変な体勢で打たないといけないこともあるかもしれない。こんな体勢にはならないから練習しなくてもいいというのは我々勝つ集団としてはいけない。「何もないこと」と「何もないようにしたこと」では天と地ほどの差がある。だから、いろんなことを想定してやろう。例えば、フットワークを色々変えて打ってみたり。

 年々、練習メニューは変わってきました。例えば4コースボレーやクロス・逆クロスのみでのサーブレシーブ。これは実戦に即した練習ではないので撤廃したのですが、はじめは選手たちから反発がありました。個人スキルを磨く練習だから、チーム練習ではない。それよりも他の練習に割こうと。

 心の底から必要だと思うなら空き時間でやるはずですが、実際にはやらなかった。気休め練習というか、昔からやっているただの安心感を得る練習になっている。小中学校からこれが基本だぞと言われてやってきているので刷り込まれています。でも実戦には活きない。本当に必要なら自分でやり出す。実戦が基本だと思っているので。そこは基礎練習で、皆でやるものではなく、個人が時間を作ってやるものです。

 チーム練習は、試合で想定されるようなこと、全体課題としてやっておかないといけないことや、チャレンジして伸ばしたいことをしますが、それ以外の半分以上は個人練習になります。

 過去の埋もれた良い部分に目を向けつつ、常識や定番に疑問を持つことがスタートでした。これをやっておけば安心という練習をしないこと。創意工夫をして、練習を積む、そして「ヨシっ」と自分が納得するまでやる。「そこまでやるかをどこまでやるか」「勝利の女神は細部に宿る」この意識を一人ひとりが持てるように。決して監督やチームメイトに依存しないチーム作りを心掛けました。

 選手を育てるとか、教えた、マインドを変えたと胸を張る人がいますが、それは本当の指導者とはいえません。

 こういう考え方もあるよ、この人はこういう考えをしているよ、この競技はこんなことをしているよと、ヒントを置いといて、自分自身で気付けるか。置いておくと10感じる人もいれば、1引っかかる選手もいます。あとで振り返った時に、「あ、なんだ、堀さん、こんなことも言っていたな」でいいんです。

続く(7月上旬予定)

私にとっての堀さん
❷内本隆文
技術の成長に年齢は関係ない。

「一番影響を受けた部分と言えば、『身体は衰えていくが、知識の面、脳は成長していくんだ』と言われたことです。つまり、知識が増えれば、変化をつけながら技術を上げていくことができる。だから、何歳になっても技術は成長していくと言われたのが、一番自分に刺さった言葉です。自分でも、まだ成長できるんだな。そのおかげで今もすごく充実していますね。堀さんは、自分たち選手が知らない、新しい考え方を提供してくれます。当然ですが、僕らよりテニスを知っているし、テニスが進化してきても、堀さんは勉強して、戦術や身体の使い方などを提供してくれます。そこはすごいと思います。自分も引退して、監督になったとして、あそこまでできるのかと思いますね」

 

PROFILE

ほり・こうだい/1983年8月29日生まれ。長崎県出身。後衛。精道中でソフトテニスを始める。島原商業高→日本大→NTT西日本。08年ナショナルチーム。2015年1月にNTT西日本監督に就任。20253月の退任まで、日本リーグ12連覇、STリーグ2連覇を達成。2025年度から男子日本代表コーチに就任。

文◎福田達 写真◎西田泰輔