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2025.09.29

『キャリアデザイン入門~競技から学べること』第4回 デュアルキャリアのロールモデル

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 前回は、スポーツ庁が推進する「アスリートのデュアルキャリア」について説明しました。デュアルキャリアとは、競技生活と並行して、次のキャリアの準備もすることで、充実した人生につなげるという考え方です。今回は、そのロールモデル(お手本)をご紹介します。

 1人目は、スポーツ庁長官の室伏広治氏、陸上ハンマー投げの五輪金メダリストです。父も同じ種目のトップ選手であったことから、「陸上競技でいくら強くても、生活していけない。自分の人生設計を考えろ」と、子どもの頃から言われていたそうです。そこで室伏氏は、競技生活をしながら大学院に進み、バイオメカニクスの博士号を取得しました。身体のメカニズムを研究することで、競技力向上につながり、現役を長く続けることもできました。現在は、東京医科歯科大学教授とスポーツ庁長官を務めています。

 2人目は、サッカー元日本代表の本田圭佑氏です。彼は39歳でまだ現役ですが、2012年に自身のサッカースクールを開校し、2018年から2023年にはカンボジアの監督を引き受けています。また、複数のプロサッカークラブの実質的なオーナーも務めています。本田氏は、「世界の貧困層をなくしたい」という夢があり、そのために自分が何をできるかを模索しているそうです。

 3人目は、ラグビー元日本代表の福岡堅樹氏です。俊足のウィングとして、日本開催の2019年ラグビーワールドカップのベスト8進出に貢献しました。ワールドカップ前から、医師を目指すことを公言し、引退直後に28歳で順天堂大学医学部に入学しました。難関なので、子どもの頃から、ラグビーと並行して、勉強もかなり努力していたのでしょう。

 他にも、図表に示したように、多くのトップアスリートのロールモデル事例があります。いずれの選手も、競技生活の頃から、次のステージを考え、準備を始めていたことがわかります。ソフトテニスにおいても、教員免許取得、何かの資格取得、公務員試験の準備などをしている選手は多いでしょう。これがデュアルキャリアに相当します。 

 日本では従来、アスリートが現役選手の間は、その競技だけに全力を尽くすべきと考える傾向が顕著でした。スポーツに限らず、「二兎を追う者は一兎をも得ず」「虻蜂取らず」といった言葉があるように、「この道一筋」であることが美徳とされてきました。「文武両道」という言葉もありますが、これはむしろ、一部の例外的な人たちなので、話題になる面がありました。

 もちろん、人生のある時期にはわき目をふらず、競技だけにのめり込まないといけない期間もあるかもしれません。しかし、人生が長くなり、多様なキャリアが実現可能になった現在においては、競技とそれ以外のバランスをとることが重要です。そのためスポーツ庁では、「できる範囲で」次のキャリアの準備を始めることを推奨しています。

 スポーツ庁管轄のスポーツキャリアサポートコンソーシアム(SCSC)のホームページには、室伏長官を含む、50人以上のさまざまな競技のトップ選手のキャリアインタビューが掲載されています。引退後は、順風満帆ではないケースも多いですが、誰もが後輩アスリートのために率直なアドバイスをしています。興味ある方はご覧ください。

<プロフィール>

山岸慎司 やまぎし・しんじ

日本ソフトテニス連盟国際委員、スポーツ庁管轄アスリートキャリアコーディネーター、国家資格キャリアコンサルタント。企業研修講師および東京経済大学講師(キャリア関連講座)。東京大学農学部修士、ロンドン大学経営学修士。現在、法政大学キャリアデザイン学部大学院でソフトテニス選手のキャリア開発支援を研究中。著書『成功する就活の教科書』(中央経済社)他。ポッドキャスト番組『2030年のキャリア戦略』毎週木曜配信。