
【インカレ・インサイドストーリー】法政大28年ぶりVの裏側。森川亮介主将インタビュ ー
インカレ2025◎8月30~9月1日(大学対抗)/千葉県・総合スポーツセンター庭球場

大会前から調子が上がらなかった。初戦からずっと出番はなく、初出場が決勝戦。同じ4年生の広岡大河とのペアで挑むことに。しびれるような緊張感の中で、腹をくくった。
自分がやれることは自分がよく分かっているのだ。
2023年に3位となり、昨年は決勝戦で敗れたが、大きな手応えをつかんだ法政大。長く優勝から遠ざかっているが、今年こそはと森川亮介主将を中心に取り組んできた。ただ、主将は春から本調子とはいかず、内面は苦しい日々が続いていた。
「昨年優勝できた国スポ(奈良県)の予選があったのですが、今回はメンバーに入れず、そのあたりから調子を落としていて、インカレ前の合宿でも上がってこないのが現状でした。法政は選手層が厚いので、正直なところ本番は出るチャンスはないかなと思っていました。チームのことを考えると自分よりも後輩が出た方がいいだろうな。
実際にも大学対抗では後輩たちがピンチの場面で頑張ってくれて、決勝まで来られたのですが、最後に髙橋監督からペアを決めろと言われた4年生の広岡が自分を指名してくれて、これはやるしかない。でも、決勝で初めて出たので、最初の3ゲームぐらいはボールも思うように打てなくて、身体も動かなくて、ミスばかりでした。1-3になって、負けたかなと思いましたが、そこからは気持ちで1点取るしかないなと広岡と話し合ったのと、応援してくれている多くの人たちのためにも、こんなんで負けるわけにはいかない。やるしかないと腹をくくれました。気づくとファイナルデュースが続いていて、マッチを握って取れなくて、取られて終わったかと思ったら追いつくの繰り返しで、心臓に悪かった。勝った時はチームに貢献できて良かったという言葉に尽きます。
試合中はチームのみんなが、特に決勝のデュースでもつれた時に、心の底から思ったことを叫んでくれたり、大丈夫だぞといい意味でいつも通りの声をかけてくれたから、こちらも試合を楽しめた部分はありました。結果的に緊張がほぐれた要因ですし、競った場面で勝てたのかなと感じています。
小さい頃から自分が他の選手より少し上回ってきたのは技術よりも気持ちの部分。それしかないので。技術的には相手の片岡選手はナショナルで、自分たちの世代でのトップ後衛です。でも、テニスというスポーツは何があるか分からないし、自分の武器は何かと考えたら、気持ち、闘志しかない。だから相手はこうだからと考えるよりも、何としても追いつくしかないんだ、それだけでした」
3本回しするから行ってきて
自主性が求められる大学スポーツにおいて、昨年の内藤主将、桑山副将の存在が大きかったと言う。
「法政は、先輩、後輩という間柄はきちんとしていますが、上下関係がありません。和気あいあいとしていますね。昨年は内藤主将、桑山副将の2人が練習での雰囲気作りをしっかりしてくれて、率先して練習に取り組むなど背中で見せてくれていました。法政が強くなったのはあの人たちのおかげだと、みんなが思っています。昨年のインカレの最後で2人は出場できなかったのですが、出てほしかったという気持ちはみんな持っていて、出場した選手たちはあの2人のために頑張るしかないと思って戦ったと思います。
今年も最後に自分と広岡に出番が来ましたが、4年生に託したという雰囲気で送り出してもらい、もちろん、大将の橋場/菊山が後ろに控えていて、彼らは『3本回ししてやるから行ってきてください』と背中を押してくれました。思いきってプレーできた要因でもあります」
振り返れば入学当初は関東1部の他大学の強さばかりを感じていたが、2年時には大学対抗3位、昨年準優勝と階段を昇ってきた。そして、ラストイヤーに主将に選出された。
「高田商業の時のインターハイで悔しい思いをして、大学では日本一になりたいという気持ちで法政に入って、この環境は自分に合っているなと思いました。周囲からいい刺激をもらいながら、2年の団体戦で4本に入り、その時ぐらいから日本一が見えるようになってきました。ちょうど橋場らも入ってきて、昨年も日本一を取れるんじゃないかと思っていましたが、決勝で早稲田に0で負けて。何か違うなというのはありました。自分もあと1年しかない。みんなの推薦でキャプテンにしていただいて、去年のいいところを引き継ぎながら、自分にしかない何かを出せればいいと思っていました。日本一取るには今年しかない。結果的には自分が何かしたかというよりも、後輩たちが勝ちたい気持ちを持って、1年間テニスに向き合ってくれたから優勝できたと思います。内藤、桑山みたいに背中を見せられたかと言えばそうとは言いきれない。でも本当の最後だけは後輩たちに見せられたなと。濃い4年間でした」
頼もしく感じた後輩たちが来季連覇を目指す。男子は群雄割拠で、混戦の大会が続いて、最近は連覇がない。
「日本一なって、一番難しいのは連覇、死守することです。日体大の女子は3連覇しましたが、男子は最近連覇をしていません。後輩たちは連覇できる唯一の代で、そういう目で見られ期待されると思いますが、自分たちの色を出して、チャレンジャーの気持ちで日本一取れるように向かっていってほしいです。僕と広岡が見せたのは、気持ちだけがすべてです。
同時にインカレは出ている選手だけでなく、もちろん学連の運営があってこそ成り立ちますし、応援のために駆けつけている人の気持ちだとか、どれ一つも欠けたら成り立たない。だから、その年のドラマがあるんです」
準々決勝、準決勝に出番のなかった広岡を髙橋監督が指名してから筋書きのないドラマは始まった。まさか最後にあんな時間が来るとは。頂点をつかむために、1年間忘れることなく取り組んできた道程のおかげでもある。

昨年の4年生、遠藤が応援に駆けつけてくれた。昨年胴上げできなかったので、あらためて代表で遠藤を胴上げしたという
PROFILE
もりかわ・りょうすけ●2003年4月23日生まれ。広島県出身。フェニックスジュニア(5歳)→向陽中→高田商業→法政大。2018年全中個人優勝(/小宮山建)。2021年インターハイ個人準優勝(/服部真大)、団体準優勝。2024年国スポ成年優勝。2025年インカレ大学対抗優勝。