『キャリアデザイン入門~競技から学べること』第6回 スポーツで身につけられる能力
今回は、スポーツを通じて身につけることができる能力・スキルについて考えます。はじめに、英国のスポーツ行政を統括するUKスポーツが2016年に発表した「10のクロスオーバースキル」を紹介します。これは、アスリートが競技を通して自然に身につける能力の中で、スポーツを超えて(クロスオーバーして)、社会生活でも役立つ能力を定義づけしたものです。日本のスポーツ庁も、デュアルキャリアに関する説明の中で、これを引用しています。
10のスキルは、次の通りです(下図参照、和訳はスポーツ庁資料より)。まず左側からWinners(勝利思考)は、勝つために努力を続ける姿勢です。次のRecovery(乗り越える力)は、失敗やケガから立ち直る回復力です。Communicators(コミュニケーション能力)は、仲間と協力しながら伝え合う力です。Motivators(意欲的)は自分を鼓舞し、仲間と励まし合う力、Composure(冷静さ)は緊張の中でも平常心でいられる力です。
右側にいくと、Adaptable(適応力)は状況に応じて柔軟に対応する力、Determined(達成力)は最後までやり抜く力です。そして、Growers(成長思考)は常に成長を求める向上心、Disciplined(自己管理力)は日々の規律と継続力です。最後のTeam players(協調性)は、チーム全体の成功に向かって協力する力です。いずれも、競技を通じて獲得できるスキルで、まさにスポーツが人生キャリアに与える「生きるための力」といえます。
ソフトテニスは、ダブルスや団体戦を重んじる教育的スポーツとして発展したため、さまざまな競技の中でも、これらのスキルが特に身につきやすい特性をもつといえるでしょう。たとえば、ペアやチームで勝利を目指す中でWinners(勝利思考)の精神が育ちます。試合や練習での敗戦・ケガ・環境変化(風雨、コート面など)を乗り越える過程ではRecovery(乗り越える力)とAdaptable(適応力)が鍛えられます。ペアと相談し、試合で短時間に意思疎通を図る経験は、まさにCommunicators(コミュニケーション能力)の実践です。また、仲間と励まし合うことでMotivators(意欲的)のスキルを高め、プレッシャーのかかる場面でも冷静にラリーを組み立てる力はComposure(冷静さ)の現れです。日々の練習時間の確保、道具の管理、礼儀やマナーへの意識はDisciplined(自己管理力)を鍛えます。さらに、団体戦を通してチームの結果を大事にすることでTeam players(協調性)の精神が身につきます。そして、日々の練習や試合を振り返りながら課題を見つけ、少しずつ自分を高めていく姿こそGrowers(成長思考)であり、粘り強く練習する習慣はDetermined(達成力)につながっています。
このように、ソフトテニスは10のスキルを体得しやすいスポーツです。選手は、競技を通して社会に通じる力を身につけることができます。保護者や指導者の皆さんは、勝敗だけでなく、日々の練習の中でこれらの力が育っていることを認め、励まし、言葉にして伝えていただきたいと思います。コートで培われたこの10の能力・スキルが、選手一人ひとりの将来のキャリアを支え、人生を豊かにしてくれることでしょう。

<プロフィール>
山岸慎司 やまぎし・しんじ
日本ソフトテニス連盟国際委員、スポーツ庁管轄アスリートキャリアコーディネーター、国家資格キャリアコンサルタント。企業研修講師および東京経済大学講師(キャリア関連講座)。東京大学農学部修士、ロンドン大学経営学修士。現在、法政大学キャリアデザイン学部大学院でソフトテニス選手のキャリア開発支援を研究中。著書『成功する就活の教科書』(中央経済社)他。ポッドキャスト番組『2030年のキャリア戦略』毎週木曜配信。




























