【INTERVIEW】若い選手たちにも知ってもらいたい。裏側でこういう人たちが支えている。①緒方貴浩さん(日本連盟医科学委員会スポーツ科学部会委員)/前編
誰よりもテニスのことを考えて、映像を分析する。もちろん、日本代表の勝利のためではあるが、テニスが好きだからこそ、閃いてきたことがあるはずだ。それほど、テニス愛にあふれている人だと分かる。莫大な時間を使用して、ヒントを導くには根気が必要だが、その先にある喜びがあるから、困難にも立ち向かえる。
――日本代表の分析班に加わられたのはいつからですか。
「2016年に千葉県で開催されたアジア選手権からです。日本連盟の医科学委員会の井田博史先生(故人)から声をかけていただきました。当初はオブザーバーとして関わり、その翌年から正式に承認されて、活動してきました。国際大会に派遣されるようになったのは、2023年のコリアカップが最初で、そこから継続して関わっています」
――分析の仕事内容ですが、言える範囲で教えていただけないでしょうか。
「基本的にナショナルチームや日本代表の合宿、予選会などの大会に参加して、そこで試合や練習の撮影をし、データ持ち帰って、分析をした上で、必要な形に整理してスタッフ・選手に共有するという流れですね。これまで、私が携わってきた監督は2名で、前任が中堀監督、現任が篠原監督です。同じ分析でも、この2人から求められる役割や進め方が異なります。
中堀監督の時代は、分析側が主導して相手の特徴をデータから探っていく、いわば探索型の分析が中心でした。中堀監督は現場の感覚や選手の状態を非常に大切にされる方で、データはその判断を支える材料として使いながら、『どこまで、どう伝えると選手が動けるか』を状況に応じて丁寧に見極めるスタンスでした。映像から得点・失点の場面を切り出し、相手の特徴を抽出して共有する、という流れでした。
一方、篠原監督になってからは、『こういうプレーをしていきたい』『日本チームとしてこういう特徴を出していきたい』という方向性が先に示され、その方針を選手たちが思いきって取り組めるように裏付けとなる根拠やデータを資料として提示してほしいという依頼が増えました。例えばここ数年は、サービス強化に重点を置いています。現状のファーストサービス時の得点率やセカンドサービス時の得点率を示した上で、『ここまで引き上げたいから全員で取り組もう』とチームとしての共通認識を作るイメージです。引き上げるための方法としてスピードや変化など、従来の発想にとらわれない選択肢も含めて、選手たちが前向きに取り組めるようデータをもとに提示します。結果として、こちらも分析の目的が定まりやすく、準備の段取りが組みやすくなった感覚があります」
――そこからいろいろ発見するのは楽しい側面も含まれているのですか。
「すごく楽しいです。篠原監督とは年齢も近く、コミュニケーションを密に取れている関係なので、疑問点を何度かやり取りした上で分析に入れます。すると、分析の焦点がある程度まで絞れてくる。そして、見つけた示唆がそのままチームの共通認識になり、選手の行動に反映される。そこに面白さがありますし、自分もチームの一員だという実感につながります。もちろん分析には根気が要ります。試合映像を見返して、仮説を立て、該当シーンを切り出して検証する。その積み重ねです。でも、感覚だったものが数字で裏付けられて『やっぱりここだ』と腹落ちする瞬間が一番楽しいです。もともと分析は好きな方でもありますし、私自身ソフトテニスをやってきた中で、スピードやパワーで勝つタイプではなかったぶん、どう補って勝つかを考える上で、データや分析を大事にしてきたことが関係していると思います」
――撮影もご自身でやられるわけですか。かなりの量を撮影されているイメージがあります。
「合宿に帯同した際には、基本的にはすべて自分で撮影します。国際大会に行く場合も同じで、ひたすらビデオを撮り続けて、持ち帰って整理してという感じです。大会中は公開練習から本当にずっとビデオを撮っています。今はビデオカメラ3台に加えて、iPhoneやiPadも複数台使って撮影しています。国際大会の良いところは時間がきっちりと決まっているので、『このセッションの時は何を撮影できるか』が事前に見えることです。日本代表の試合は必ず撮ります。次の対戦相手も撮る。さらに注目している選手、例えば、韓国や台湾の選手も撮るという流れです。ただ、国際大会に派遣される医科学委員の分析班は男女それぞれ一人ずつなので、カメラを設置して回して、次の撮影場所へ移動して、試合が終わったらすぐに監督・コーチ、選手に映像を渡してと慌ただしいことも多いです。だから日本代表の試合を実はちゃんと見られていないこともあります(笑)。決勝戦でようやく座って見られるという感じですね。もちろん、撮ったあとの整理や分析の時間は長いですが」
――やり始められた時と分析自体に変化はありますか。
「ありますね。以前は相手中心の分析が多かったですが、今はこういうことをやろうという方針が先に決まるので、自分たち中心の分析に変化してきたと思います。それに、仕事量そのものが大きく減ったわけではないですが、分析の効率はかなり良くなりました。篠原監督の場合、1年の最初のナショナルチーム合宿が2月にあるのですが、そこでまず、『今年はこういうことをしていきたい』という方針を選手にプレゼンされます。なので、そこに間に合わせるために、秋の大会が終わったタイミングから打ち合わせをして、必要なデータを集めて分析し、資料を作っていくという流れになります」

2025年アジア選手権成果の裏側
――昨年のアジア選手権ではミックスダブルス以外すべて金メダルという大きな成果を挙げられましたが、その一年間を振り返っていただけないでしょうか。
「昨年は、私が合宿に参加できないことも多く、ずっと帯同して長い時間をかけて分析できたかというと、そうではありません。実際、国際大会のコリアカップにも参加できなかったので、その時は増田コーチに撮影をお願いして、撮ってきてもらった映像をこちらで分析しました。
一年を振り返ると、軸になったのはサービスの強化です。2024年の世界選手権で一定の手応えがあって、それをさらに高めていこうというところから始まりました。例えば、世界選手権の時は選手たちが球速を上げたセカンドサービスへのチャレンジができていましたが、その後の天皇杯などの時期になってくると、少し影を潜めてしまう。だから改めて、ファーストサービスも含めてもっとサービスを強化していきたいという話になりました。2月の四日市で最初の合宿が始まった時には、世界選手権ではサービスで主導権を取れていた、というデータをまず提示して、今年も引き続き強化していこうと確認しました。その合宿では、硬式テニス専門家の堀内(昌一)監督にも指導していただいています。あとは年間通じてサービスのスタッツですね。ファーストサービスの確率と、入った時の得点率。デュースサイド、アドサイドの両方を見ます。セカンドサービスの時の得点率も含めて経時的な変化を追い続けたというのが一つのテーマでした。
もう一つの柱としてシングルスの強化にも取り組むことになりました。上松(俊貴)選手がいる間は一定の強さが担保されている面もあるんですが、そこに続く選手が十分に上がってきていないという課題がありました。そこでチームとして、シングルスの底上げにつながるプレースタイルを確立して、その根拠になるデータも集めていこうということになったんです。篠原監督・増田コーチ・堀コーチが2月の合宿の時から言われていたのが、いわゆるトランジションの動きです。上松選手の強さは、もちろんバックハンドがあるんですが、もう一つは自分が攻めて『次はチャンスだ』となった時に、コートの中に入っていって、速いタイミングでもう一度攻撃していく。この前に入っていく動きを、日本代表ではトランジションと呼んでいて、これをチームとして増やしていこうとなりました。そこで、シングルスの試合映像を、横と後ろの2画面で撮影して、トランジションがどの状況で、どのショットで、得点につながっているかを整理しました。選手に見せる時には特徴的な場面だけを切り出して、『こういう動きが得点につながっているから、みんなもこれにチャレンジしていきましょう』『このトランジションの動きを増やしていきましょう』と。
その後、8月の北海道での強化合宿では、対ダブルフォワードの練習をみっちりやりました。もともと取り組んでいた部分ではあるんですけど、篠原監督からは、ステップワークとボール処理を中心に、『こういう打球が必要で、ここに打つときにはこういう動きをしよう』とかなり具体的な指示が出て、それをチームで徹底していったんです。動きが洗練されていく様を見たときには、正直すごいなと思いましたし、これは勝てるというか、すごい手応えを感じました。このステップワークの部分に関しては、いわゆる分析というより、練習中から選手の動きを動画で撮って、『この動きはできている』『ここは理想から少し外れている』というのを映像を見ながら篠原監督と2人で確認して、必要な場面を切り出して選手に見せる。自分の動きを客観的に確認して、動きを洗練させていくという進め方でした。なので、2025年は大きくいうとサービスの強化とシングルスの強化、そして8月以降のダブルフォワード強化。この3本が柱でした」
――ダブルフォワードだと台湾のユー・カイエンのペアがいますが、ダブルスで内本/上松が完勝した試合が感動的な内容でした。二人が出した短いボールと頭の上のボールに上手く適応できなかったと言っていました。
「これは今年のアジア競技大会でも必要になる戦術なので、あまり詳しく話せないんですが、相手に的を絞らせないという意味では、短いボールと頭の上のボールを使い分けることは大事だと思っています。日本代表としてもテーマを持って取り組んできたので、その成果が出た試合だったのかなと思います。試合後に篠原監督と話した時も、『これできすぎだよね。団体戦に向けて逆にちょっと怖くない?』という話をしたのを覚えています。ただ、うまくいったからこそ、『じゃあ自信を持って続けよう』となったのも事実です。一方で強いダブルフォワード相手に、やってきたことがうまくいかなかったらどうしようという不安もありました。自信を持って取り組んできましたが、海外勢とは普段から対戦しているわけではないので、未知の部分が多いですし、そこはやっぱり怖さもあります。今年のアジア競技大会に向けては、相手もそれを前提に必ず何か準備してくるはずなので、こちらも準備を重ねながら、常に新しいことにチャレンジしながら、駆け引きが続いていきます。実際、アジア選手権のダブルスで勝った後、台湾チームは団体戦に向けて対策練習をしていて、監督・コーチらが確認しようと観に行ったら、練習をやめたり、ビデオ撮影しようとすると撮影NGと言われたりしました。昔の国際大会では、こういうやり取りがもっと多かったと聞いています」
――この競技をしている人たちが、プレーだけではない側面を知ったり、観ることで、新しい自分の発見できる可能性があるのではと感じています。
「まさにそうだと思います。ソフトテニス・マガジンでは成田さんが分析の連載をされていますけど、それを読んだ選手や愛好者は分析って大事なんだと気づけるはずですし、実際に取り組むことで勝てる可能性が高くなると思います。相手のデータだけでなく、自分のデータも分析することで練習に落とし込んでいけると思います。もちろんデータがすべてではないですが、今までうまくいかなかった相手に対しても、データを手がかりに『どこで勝負するか』『どう追い込むか』を考えられるようになる。そうやって頭を使って勝つという楽しさに、もっと多くの人が目を向けてくれたら面白いですね」
(続く)
PROFILE
おがた・たかひろ●1985年9月10日生まれ。熊本県出身。右利き・後衛。東野中→済々黌高→早稲田大→早稲田大大学院。帝京大学医療技術学部スポーツ医療学科助教。帝京大学体育局ソフトテニス部監督。日本ソフトテニス研究会事務局長。
※ソフトテニス・マガジン4月号にて、お名前が間違っていました。正しくは「貴浩」でした。ここにお詫びして訂正させていただきます。




























