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2023.04.26

日本連盟・高井志保強化委員長に訊く。 『より「個」の力を』

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 ソフトテニス界でも有観客や声出し応援再開など、日本全国のテニスコートに活気が戻ってきている2023年。日本連盟では、23年度のナショナルチーム、アンダー20・17・14と新たに始動した。3月には、3年ぶりの国際大会となる第19回アジア競技大会(中国・杭州)の日本代表選手も選出された(このあとJOCの承認を得て正式決定する)。そして、26年には愛知県名古屋市で第20回アジア競技大会の開催が予定されている。

 より一層の強化を見据え、心新たに始動した23年度。今回は、ナショナル、アンダーの合宿では、各カテゴリーの監督やコーチ、トレーナーなどと積極的にコミュニケーションをとり、一貫指導のもと、効果的な選手育成を目指す姿勢がうかがえる高井志保強化委員長に、23年度の強化体制から今度の選手育成などについて伺った。

高井志保強化委員長

一貫指導の見える化

 新始動ではありますが、これまでの先輩方が築いてくださった土台があり、その礎を生かし、ブラッシュアップしたものを23年度もやっていきます。その中で、23年度のカラーも出していこうと考えていました。

 今回、強化委員会で活動方針というのをまとめました。それをナショナルチームにトップダウンし、それを踏まえて男女ナショナルチームの方でも活動方針を定めてもらい、それをもとに各カテゴリーのアンダーのスタッフ陣にも共有し、一貫指導になるようなシステムづくりをしています。それぞれの指導者はバックグランドも異なりますし、それぞれの強みをもっていらっしゃいますが、共通認識を言葉にすることで、一貫指導が見える化し、ブレることなくやっていけると考えました。

 23年度の強化をスタートするにあたり、22年に開催予定だった第19回のアジア大会が延期になり、そこに向けての取り組みと、26年の名古屋のアジア大会を見据えてということで、短期・中期・長期のプランを立てて、ビジョンをしっかり決めてスタートをきっています。監督、コーチ、トレーナー、マネージャーの役目もしっかりと決め、それぞれが臨んでくださってくれています。例えばトレーナーは、トレーナー部会で話をした上でナショナルチームのトレーナーからアンダーのトレーナーへ、強化委員会の活動指針を基づいて、各カテゴリーがどのようなトレーニングをやっていけばいいか、具体的な内容を共有しています。

 フィジカルトレーニングは日本では男女ともに課題となっています。2月のナショナル合宿でも履正社スポーツ専門学校北大阪校(箕面市)のトレーニングルームを借りて、データをしっかりとっています。そして特に、ウエイトトレーニングを今回からより一層取り入れ、トレーナーが選手にレクチャーし、所属チームでも取り組んでもらえるようにしました。

 また、これまでは全体的なトレーニングは行っていましたが、今回からは個々の選手に対してのトレーニングを実施していけるような体制づくりをしています。

メダル数にもこだわる

 また、強化委員会の中で、過去のプランとの違いとして、「個」の力をしっかり育てることも掲げています。今まで日本のソフトテニス界では「団体戦こそ、すべて」という共通認識がありました。ただ、JOCの評価の中では、「メダル数」というワードが非常に大きなウエイトを占めているんです。たとえば、国別対抗で1つ金メダルがとれた。でも、他国はシングルス、ミックスで2つの金メダルをとっている。どちらがよりよいかというと、2つの金メダルを獲得した方が評価されるのです。つまり、「個」の力を育てていくことで、強い選手がたくさんいれば、団体戦でも負けない。そのため、今後は「個」の力をクローズアップした育成を目指していきます。

 もちろんアンダー世代だと、チームで(学校で)団体戦で勝つという大きな目標があると思います。それを否定するわけではありません。ただ、全日本で活動する(ナショナルチームやアンダーでの活動)の際は、選手たちにも「個」の力を伸ばすことを目指してもらいたいと考えています。

 それと、JOCの理想のアスリート像というのが、「あこがれられる人生を歩んでいるか」ということなんですね。たとえば、女子選手に関して、結婚や子育てなどでソフトテニスから離れる割合が高いのが現状ですが、競技人生をしっかり生き抜くことで、第2ステージでも輝くという思いで、思い存分、競技人生をまっとうしてほしいんですね。たとえば、子供を産んでいるけれど、出産後にまたソフトテニスに関われる。そういった環境を整備し、選手がより人生を輝けるようなサポートしていきたいと考えています。強化委員長として、今年度、ナショナルチームの選手などに話をした際に、選手たちが人生かけてソフトテニスに取り組んでいる。だから、こちらも「自分も人生かけてサポートしようと考えている」と伝えました。思い描いた目標や環境はすぐには手に入れられませんが、少しずつでも「変えていこう」という志を持ち続け、私も自分の役目をまっとうしていきたいと考えています。

 ですから、ナショナルチームやアンダーの選手の皆さんには、自分の人生観がコートで表現できるような競技生活を送ってほしい。コートに、その選手の生きざまの余韻が残るような、そんなプレーをしてほしいですね。「しんどい場面だな」「逃げたくなる場面だな」――そういう場面で、ナショナル選手などのプレーを見て、ファンの皆さんが自分の人生とリンクさせて、ファンの人に力を与え、共感してもらえるような……大会結果以外にも影響を与えられるような選手になっていただきたいです。

 それと、「ソフトテニス界に夢と誇りを」を強化委員会では強化方針にしました。それを踏まえ、具体的に「センタポールに日の丸を掲げる」「すべてのファンから愛される人間力を身につける」といったミッションに取り組んでいきます。

 また、「スポーツ科学部会との連携もさらに強固にしていく」ことも方針として掲げています。短期間の中で結果を出していかないといけない国際大会などでは、確実に成果を出していくためにはデータに戻づく正しい努力をしていくことが重要です。選手が邁進しやすい環境づくりに取り組んでいきます。

研究心を持って、選手とともに戦う

 毎回、さまざまな強みを持った指導スタッフに強化に携わっていただいていますが、今回は、研究心を常に持ち、その姿勢が選手たちのリスペクトを生み、ともに戦っていけるという図式で人選をしました。あとは、各カテゴリーでさまざまな面でバランスをとったつもりです。

 そして、女子では全カテゴリーに女性スタッフを配属したのは、今年度が初めてではないかと思います。男尊女卑ではなかったと思いますが、女性の指導者が全日本の場で力を発揮していただくことがあまりなかったので、今回はいろいろな角度からサポートしていただこうと。今の形が正解ということではなく、いろいろなところで活躍していただける環境づくりの第一歩かなと、私自身は考えています。

 それと、すべてのファンから愛される人間力を身につけるという観点でいうと、スタッフ自身が、選手から「あういう生き方がしたい」「あの人のような人生を送りたい」などと、思われるような指導者でいていただきたいなと思い、皆さんにはお話しいたしました。

 1年間、ナショナルチームでさえ、合宿をともにする時間は少ないんです。その中で、運命的な出会いや言葉が、選手たちの琴線に触れることができたらいいなと考えています。選手も指導スタッフも本気で接する中で、人生を変えるような言葉をかけられたとか、そういう経験が、合宿中に1つでも生まれたらいいなと思っています。なので、指導スタッフには、「人生の中で最高の出会いにしてください」と伝えました。

 最後になりましたが、毎年のように国際大会があり、ナショナルもアンダーも選手の入れ替えがあります。もちろん指導スタッフも代わることもあるでしょう。これまで短期的になりがちだった目標を、今回は26年の日本開催のアジア競技大会を見据えて、短期・中期・長期での体制を整えるようにしました。その中で、随時ブラッシュアップはしていきます。長期的に育成できるような強化システムを、これからも関わるすべての人間が一丸となって推進していきたいと考えています。

取材◎八木陽子 写真◎石井愛子

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