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プレー&コラム
2025.11.03

『キャリアデザイン入門~競技から学べること

第5回 ソフトテニス選手を取り巻く関係者(アントラージュ)

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 今回は、アスリートを取り巻く全ての関係者(アントラージュ)が協力・連携することで、選手の幸せなライフキャリアを支援するという考え方を説明します。アントラージュとは、フランス語で「取り巻き、環境」という意味です。国際オリンピック委員会(IOC)が提唱し、スポーツ庁や日本オリンピック委員会(JOC)も推奨しています。

 欧州連合(EU)は2012年に「アスリートのデュアルキャリアに関するガイドライン」を発表しました。「デュアルキャリア」は、競技と学業・仕事を両立させる取り組みです。競技生活は人生の一部に過ぎませんが、青少年期には進学・就職など、その後の人生を左右する重要な節目が含まれます。欧州では、学業が疎かになること、競技以外の社会経験が不足すること、引退後の就業の難しさが問題とされています。そして、この問題を緩和させるには、全ての関係者(アントラージュ)がデュアルキャリアを理解し、競技者を支援することを提唱しています。

 これは10代から海外を含む長期遠征を繰り返さないと一流になれない競技(例 サッカー、スキー)や、10代後半が選手寿命のピークを迎える競技(例 女子体操、女子水泳)では、以前から問題視されていました。一方、ソフトテニスの場合は、学校の部活を中心に発展し、指導者の多くは教育者(先生)であることから、「学校に行かれない」という問題は少ないでしょう。また、生涯スポーツとして長く競技ができるため、自分で上手くバランスをとっている人も多いと考えられます。

 しかし、ソフトテニスに限らず、小学生から大学生まで、各段階でトップレベルを目指す若者は、自分だけでは人生全体を長期的に考えることは難しく、競技にのめり込みがちです。そのため、保護者や指導者を含む関係者(アントラージュ)の役割が重要になります。ソフトテニス選手のアントラージュは、図のように示されます。家族(親、きょうだい、配偶者など)、教育(教師、学校の友人、学友・ゼミ仲間、OBOGなど)、競技(監督、コーチ、サポートスタッフ、チームメイトなど)、職場・社会(上司、同僚、アルバイト仲間、応援してくれる人など)の4つの側面から、「人としての成長」と「競技力の向上」の両面をバランス良く支援する必要があります。

 家族以外の3つの側面は、成長段階によって関係者が変化します。そのため、特に少年期においては保護者が、競技と人生全体を俯瞰して捉えることが必要です。また、指導者を含む全ての関係者がデュアルキャリアの理念を理解し、広い視野で支援することが求められます。選手本人の意識を啓発することも重要で、低年齢期から学業と競技の両立意識を育むことが、競技を脱落することの防止にもつながると言われます。最終的には選手自身が主体性を持ち、自らの人生設計に責任を持つことが大切で、アントラージュの役割はその過程を支える環境づくりにあると言えます。

日本オリンピック委員会(JOC)の下記サイトには「アントラージュ」についての説明と、約5分のYoutube動画が掲載されています。スキー・荻原健司、柔道・山下泰裕、陸上・高橋尚子の3氏が、あらゆるレベルのアスリートにとって、アントラージュの支援が競技力向上だけではなく、その後の人生にも大切であることを熱く語っています。興味ある方はご覧ください。https://www.joc.or.jp/for-athletes/entourage/

<プロフィール>

山岸慎司 やまぎし・しんじ

日本ソフトテニス連盟国際委員、スポーツ庁管轄アスリートキャリアコーディネーター、国家資格キャリアコンサルタント。企業研修講師および東京経済大学講師(キャリア関連講座)。東京大学農学部修士、ロンドン大学経営学修士。現在、法政大学キャリアデザイン学部大学院でソフトテニス選手のキャリア開発支援を研究中。著書『成功する就活の教科書』(中央経済社)他。ポッドキャスト番組『2030年のキャリア戦略』毎週木曜配信。